連載の始まりは、連載終了へ向けてのカウントダウンの始まりでもある。途中、読者の延長コールによってカウントアップがあったものの、やはりこうして終わりはやってくる。これが人間界の宿命であり、ひいては人間の宿命でもある。だが、マ界には終わりがない。探求しても探求しても、新たな発見があり夢がある。その魅力が佐々木武蔵に永遠のチャレンジ精神を与えてくれるのだ。
武蔵は1本のゲームを理解することで、ゲーム全体の流れというものを把握した。このことは、マシン語をマスターした以上に貴重なことであった。なぜなら、部分的に高度なテクニックを知っていても、全体がわからなければゲームとして完成できないからだ。
そんなバカな……と思う方もいるかもしれない。しかし、広告時期をミスったり、発売延期や中止が日常茶飯事というゲ界の現状を目の当たりにすれば、それは事実として確認できること。自分が何合目にいるのか、それを正確に判断していないから、こんな無駄なことをしてしまうのだ。全体の中の自分を知ることは、プログラミングよりもはるかに高度なテクニックなのである。いわば、プログラムを管理する管理職としての能力だ。
ゲームを制作する以前に、こういった能力を習得したことは、武蔵にとって思いも寄らぬ副産物であった。事実、ゲームを制作する段階になっても、武蔵は常に自分の作業行程を客観的に見つめることができた。タモリ博士が「まだまだ先は長い。これからが大変だゾ!!」などと妙な揺さぶりをかけても、まったく不安に思うことはなかった。ろくなツールもない最悪の開発環境下ではあったが、武蔵には自分の着手したゲームがどんな状態にあるのか、手に取るようにわかっていたのだ。
制作を開始してから4ヶ月後……。武蔵最初の作品(オールマシン語ゲーム)は完成した。作るのもたった一人なら、売るのもたった一人。いったい、会社側には本気でこの商売をしようという気があるのかどうか。事の始まりが唐突なら、終わりも唐突であった。
−−− 予想したほど魅力的なビジネスではなさそうだから、これにて撤退する。武蔵には従来通り営業に専念してもらう −−−
しょせん、会社とはそういうもの。給料さえ払えば、サラリーマンの人格など関係のないこと。いちいち個人の好みなど聞いてはいられないのだ。だが、武蔵は会社のオモチャとして生きるつもりは毛頭なかった。会社がその気ならば、これぞ奥の手。職業選択の自由、アハハ〜ンだっ!!
そう、本気の武蔵にとって、1本のソフトの制作完了でプログラミングが終わりになるわけがない。それこそが、夢とロマンを追い求める長い長い放浪の旅へのスタートであった……。
これから、マ界へ向かう勇者たちは、もはや佐々木武蔵と同じ足跡をたどる必要はない。『はじめてのマシン語』〜『マシン語ゲームプログラミング』を始めとして、多くの書籍が勇者をやさしく導いてくれるからだ。それについて、ここに武蔵からのメッセージが届いている。
現在(←連載当時)はマ界の案内書も増え、私のように真っ暗闇の中を試行錯誤をしなくてもいいようになった。だが、それに甘えないでほしい。甘えればキリがない。教わるのではなく攻撃的に学び取るのだ。チャレンジしているというファイトを見せてほしい。それが闘魂だ……!!
佐々木武蔵
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== 完 ==
※ 時は流れて……
テーマとなっているマシン語は、あくまでも当時の姿をそのまま再現したもの。したがって、どうしても内容的にオールドな香りが漂ってしまう。CMで話題になった「職業選択の自由、アハハ〜ン」のコピーも記憶の彼方へ……。広告時期のミスや発売中止といった失態も見かけなくなった。すべてが過去の物語……なのだが、本文に秘められた熱きハートを少しでも感じ取ってもらえれば……と、非オールドな佐々木武蔵は願うばかりだ。