◆佐々木武蔵登場

ゲームに驚いてるくらいじゃ甘いよね……という広告のコピー(←10年ほど前のパソコンではゲームがソフトウェアの主役の一翼を担っていた!)があったが、これは近来まれに見る刺激的な名文句だ。やれボスがどうの、短時間攻略がどうのと騒いでみたところで、しょせんはプログラマーの手のひらで踊っているようなもの。パソコンは創造の機器であることを忘れちゃ困る……というわけである。

エ〜イ、だったらハッキリと「マ界で思う存分暴れたらどうだい」と宣伝してくれりゃいいのに。もちろん、勇者は実在のあなた。レベルアップは本物だし、手に入れるアイテム(ツール類)だって本物だ。マ界には、ゲ界の手先を含めてあらゆるテクニックが敵となってウロウロしている。こいつらを倒して、マ界に夢とロマンを取り戻すのが勇者の務め。困難なようだが、な〜にゲ界の敵の正体なぞ、すぐにわかるようになるサ。あの男でさえ、そうなれたんだから……。

ここに、アントニオ猪木を師と仰ぐ一人の男がいた。その名を佐々木武蔵といい、平凡なサラリーマンだ。武蔵は、某私立大学の文科系卒。しかも、在学中は運動部(自動車部)に籍を置いており、授業そっちのけで日夜トレーニングに明け暮れていたというから、およそ知的労働には向いていない人物だ。

卒業後は、世界を飛びまわる商社マンを夢見て中堅の貿易会社に就職したが、なんと担当は輸入。輸入したものは売らねばならない。もちろん、それは日本国内。というわけで、海外出張は1回だけ。せっかくこさえた「ANTONIO M.SASAKI」の名刺も大量在庫。
ア〜ァ……これじゃ夢がない。こういうときは、やめるに限る。しばらくは失業保険でノンビリできるし……と思ったが、6年以上もサラリーマンをやっていると満員電車が無性に恋しい。

そんなとき、輸出担当者を求めているカー用品メーカーがあることを、人材バンクの閲覧表で知った。オッ、これだっ!! さっそく紹介を受けようとすると、なんと人材バンクの女の子は「あなたの経歴は輸入ですから紹介できません」という冷たい返事。冗談じゃない。輸出も輸入も業務は同じだ。ヘン、住所と電話番号をコッソリ控えたから、もう紹介状なんていらないヤイ。

結局、直接そのメーカーを訪ねて、すでに内定者がいるというのに強引に入社してしまったのである。これで念願の輸出ができる……と思ったのも束の間。数ヶ月後には、国内の新規ルート開拓を任されてしまったのである。どうやら、入社の経緯からして営業向きと思われたらしい。

ア〜ァ、ほとほと輸出には縁がない男。しかし、こういうときは無理に執着しないほうがいい。きっと、国内営業をする運命なんだから。
こうして、武蔵はカー用品の中からエレクトロニクス関連品(デジタル時計とかカーコンピュータ)を持って、秋葉原を回り始めた。もちろん、それ以外にも免税店やパチンコの景品問屋など、いくつものルートを開拓した。売り上げも増え、徐々に軌道に乗ってきたような気がしてしたのだが……。

ある日、武蔵は社長室へ呼ばれた。運命とは、実に理想と違う軌跡を歩むものらしい。そこには、武蔵の想像をはるかに超えた運命が待っていたのであった。