かつて…といっても1960〜70年代のこと。音楽好きの中には「女の子にモテたいためにギターを始めた」とか「カッコよく見られたくてドラムを叩いた」というように、行動と目的が一致していない者が少なからずいた。
それを否定はしないけど、単細胞型人間にはそんな高度な技を考える知恵はない。本能で向かう先こそが、そのまま夢であり目標なのだ…なァ〜んて胸を張れるのは、しょせん「どうやってもモテない男」という自覚があったればこそ。無駄とわかっている努力はしないのだ。振り返っても、追いかけた夢に他人(←特に女性)の目線を意識した形跡はない。
そんなモテない孤独な青春時代であっても、やはり映画や歌の世界にあるキラキラした人間模様に憧れがないわけではなかった。そこに現実味があるかどうかは関係のない別枠の世界。美しい物語をしばし妄想するくらいは、誰しも一度は経験した記憶があるだろう。
例えば、ここ数年来で最大のお気に入りとなっているこの曲にも、そんな作り話のような光景が描写されている。生涯無縁であることは理解しつつも、なぜか「いいなァ」と思えるのだ。
実は、この曲が発表された当時(1971年春:大学3年のとき)は、曲名すら知らなかった。とにかく「夏合宿の県境マラソンでの優勝」を目指していた時期で、すべてのベクトルがその一点に集中していた。ラジオから流れる音楽に、うつつを抜かしている場合ではなかったのだ。
そんな空白の期間に埋もれてしまった名曲。古い昭和の曲であるにもかかわらず、今になって「最大のお気に入り」となった背景には、見知らぬ別世界の夢が蘇ったからかもしれない。そもそも、あの時代にこんな浮かれた気持ちがあったら、とても死ぬ気では走れなかった…。
できることなら、こんなふうに男性パートでデュエットして夢の演出をしてみたいけど、きっとそれは憧れのままにしておくほうが無難だろうネ。そもそも、喫茶店は無粋に「サテン」だったし、おしゃれな「カフェ」なんて聞いたこともなかったから。
そういえば、自動車部の近くには「ポポ」という小さな喫茶店があった。部員同士で誘われれば断らなかったけど、お腹の足しにならないコーヒーは絶対に飲まなかった。頼むのは、いつも決まってスパゲッティのナポリタン。アァ、あの懐かしい味がする「ポポ」のナポリタンが食べたい!