以前、毎日のように数十キロを走っていたころ、そこに「疲れた」という感覚はなく、どちらかというと「走り飽きる」こととの闘いだったような気がする。
そんなとき、走りながらよく歌っていたのが『都の西北』や応援歌の『紺碧の空』だった。落ち込んだりヘコんだりしているわけではないので、いわゆる気晴らしだったのかもしれない。ただ、それによって不思議と元気が出たのは事実だ。
最近では、畑での草むしりなど単調でチマチマした作業のときに、これまた自然発生的に校歌や応援歌の『燃ゆる太陽』『ひかる青雲』『精悍若き』などを口ずさむ。母校愛というより、その時間は無意識・無感情で作業が淡々と進展してくれるからだ。
実は、そんな曲の中に早慶戦に勝利したりお祝いの席で歌う『早稲田の栄光』という荘厳な学生歌がある。もちろん、早稲田に無縁の方には単に「ア、そう」という心境だと思うが、栄光であるが故に負けたときには歌わないし…歌えない。
しかし、武士の果し合いならいざ知らず、スポーツの世界は勝つこともあれば負けることもあるのだ。負けることは、成長するためのバネでありエネルギーでもある。それに「負けたらシュン」では精神衛生上もよろしくないではないか。
…と誰しもが思ったのかどうかは定かでないが、1980年(昭和55年)に『えんじの唄』という敗戦時のための歌が作られていた。
つい最近になるまで、そんな曲が存在することすらまったく知らなかったのだが、聴いた瞬間に最大のお気に入りとなってしまった。他の応援歌のように「ワセダ」を連呼することもなく、ただ心の奥底にある闘志の炎を燃やし続けるだけ…。
とりわけ、この心情を男らしく表現しているのが応援部バージョン。えんじ色は早稲田のカラーだけど、男ならそれを超越した武士の魂を感じられる…と思う。
こんな男くさい歌詞をチアリーディングの女性が歌っているところもスバラシイ。アァ、また神宮球場で早慶戦の応援をしたくなってしまった。見知らぬ者同士で共に肩を組みながら…。