昭和40年代になって、団塊の世代が高校生〜受験生という時期になったころ、ラジオからは若者向けの深夜放送が次々とスタートした。
それまでの「夜は静かに寝る時間」という生活が、小型トランジスタラジオの普及に伴い、ラジオをイヤホンで聴きながら「夜遅くまで勉強する」というスタイルに一変したのだ。そんな時代の流れに敏感に反応したのが、これまでにない明るく楽しい深夜放送だった。
とはいえ、そういう新しい文化に対して親が批判的なのは世の常。私も、なかなかラジオを購入する許可が得られなかった。しかし、これにはラジオ講座という強力な援軍があった。さすがに、受験勉強の一環となれば反対はできない。
こうして、インターネットのない時代にもかかわらず、ラジオを通じて多くの世界の情報に接することができた。とりわけ、新しい音楽を知るのはほぼ100%ラジオからであった。
実は、当時の私は洋楽よりも歌謡曲のほうが好みで、ラジオから洋楽が流れると放送局を切り替えることも多かった。
特に聴きたくなかったのが「アッシ…」と≪聞こえた≫出だしの曲。タイトルは「ド(?)ック〇〇」だったように記憶している。音階的には「ド・休符・ソ…」つまり「ド(ッ)ソ」だったと思うのだが、とにかくこの「アッシ…」が嫌いだったのである
嫌いなのだから、そのまま忘れ去ればいいだけなのだが、なぜかその「アッシ…」が逆印象で忘れられない。そして、それから十数年後…一転して「あれは、いったい何という曲だったのか?」という妙な感覚に襲われることになった。
60年代のアメリカン・ポップスなどを中心にいろいろ聴いてみたけど、どうにもこうにもわからない。タイトルから真っ先に候補になったのは、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」だが、これは全然違う曲だ。
そのまま時は流れ、ネットの時代になって「ドック」で検索してみたのだが、該当する曲に出会うことはなかった。もはや諦めるしかないのだろうか…?
…で、ここで話は一転して別方向に向かってしまう。年齢的なこともあるかもしれないが、最近の音楽には魅力がわからないものが少なくない。リズム・ダンス・歌詞がメロディよりも優先されてしまうと、古いラジオ世代には音楽として伝わらない…のだ。
そんなわけで、このところ昭和の歌謡ポップスの中から、その時代に聞き逃していた曲を探し出すことが楽しい。ちょっとした、お宝探しの気分になれるからだ。
ある日、当時のアイドル中村晃子の知られざる曲を聴いていたところ、その中に『ロック天国』というタイトルがあった。瞬間的に脳裏に走るビビビッとした感覚。それは正しく、半世紀以上探し求めていた「アッシ…」のカバーだった!
そこから先は、まるでパズルが解けたように一件落着。オリジナルは、PPM(ピーター・ポール・アンド・マリー)が歌う『I DIG ROCK AND ROLL MUSIC』という曲で、邦題が『ロック天国』として発売されていた…というわけ。
※再生できない場合は「YouTube で見る」から再生してください。
気になる「アッシ…」は、なんと「I dig…」の空耳だったのである。せめて「I think…」だったら救われたような気もするが、ラジオの音質が悪かったということにしておこう。
ちなみに、この曲はフォーク・グループの代表格であったPPMが、ロック・グループやそのファンに対して「フォークでもロックを表現できる」という心意気を示しているのだそうだ。
何のチャートかは不明だが、1967年の全米9位というからヒット曲だったことは間違いない。でなければ、カバーされたりラジオで何度も耳にすることはなかったはず。そう思って聴くと、あれほど嫌いだった曲が心地よく響いてくるから、アラ不思議…。
こうして、永年のナゾの1つが解明して気分的にはスッキリとしたのであった。こういう音楽探しの旅をしていると、感涙するような新しい曲に出会うこともある。実は、つい最近もそんなうれしいことがあったのだが、それについては、いずれ又…。