●奇想天外なこと

 フィクションにせよノンフィクションにせよ、人間は奇想天外なことに対して強く興味を示す傾向がある。つまり、ドラマであれ現実であれ常に予測の範疇にないことを追い求めているのだ。
 それゆえに、例えば連勝街道をひた走る横綱が負けたりすると、その意外性に座布団が乱舞したりするし、決まり手が珍しいだけでもニュースとなる。ましてや、行司が押し出されて脳震盪なんてことになれば、末代までも語り継がれることだろう。

 昭和30年代まで実際にあった見世物小屋などは、いわば典型的な「奇想天外なものに対するショー」だった。また、かつてのプロレスもそれに近い雰囲気があった。
 例えば、アイアンクロー、ココバット、大巨人……といった常人離れした身体の特徴から発揮される存在感。さらには、ミステリアスなプロフィールや得意技なども観客動員の大きな要因だったのだ。
 だが、現在のIT社会ではそういった不透明な期待感を消失させてしまうほど、あらゆる情報が世界を飛び回っている。そうなると、期待の対象は「どちらが強いか?」という部分に集約されてしまうものなのだ。総合格闘技やK1にプロレスが押されているのは、情報社会という時代の波に押し流された結果ともいえるだろう。
 逆に、この流れをうまくキャッチしているのが、いわゆるエンターテインメント路線を前面に打ち出しているWWE、少なくとも、ストーリー化されているだけに奇想天外なシナリオ展開がある。ただし、試合は生もの。役者が演じるドラマとはワケが違う。

 その最たる試合が、2003年6月に行われたビッグ・ショーとブロック・レスナーの究極の一戦。なんと、大巨人ビッグ・ショーを怪力ブロック・レスナーがコーナー最上段からの雪崩式ブレーン・バスターで投げ落としたのだ!
 ……と、ここまでは予想の範疇だったが、そのあまりの衝撃にリングが破壊。レフェリーは大きく跳ね飛ばされ、挙句の果てに両者KOという結末に……。
 テレビを見ていて、思わず歓喜の声を上げてしまった。こんな奇想天外な試合は、絶対に総合やK1のリングでは起こり得ないッ!
 これこそ想像を超えた巨体と無謀さが引き起こした展開だが、その裏側には実にハードなトレーニングが隠されていることを忘れてはならない。

 アァ、しばしの感動と興奮。久々にプロレスの醍醐味を味わった瞬間であった。惜しむらくは、小粒なレスラーが多くなってしまった日本のリングでは、こんな奇想天外なノンフィクション・ドラマは味わえないということ。出でよ、日本のジャイアント!


≪ちなみに≫
 この試合のビデオを、自信を持って「こんな面白いものはないッ!」と家族に見せたのだが、アッサリと一笑に付されてしまった。プロレスに興味がないということもあるかもしれないが、曰く「こんなものを面白いということが面白い」だって。
 そうかなァ……。わかるも凡人、わからぬも凡人。私にとっては、この面白さをわからないことのほうが悲劇に思えるのだが、ウ〜ム……。