1st Stage:Scene 6

バイトで覚えるパ界の情報


 もはや日本語化しているかもしれないが、記憶とか記憶先のことをメモリという。人間に備わっているメモリは、もちろんアナログ的な感覚で漠然と記憶をする脳(の一部)である。
 しかし、覚えきれないこと、忘れたくないこと、大切なこと……は、メモをしたりコンピュータなどの記憶装置を用いて別枠で保存をする。
 すなわち、人間にとって脳の記憶部分が主記憶装置(内部メモリ)であり、それ以外の記憶手段はすべて補助記憶装置(外部メモリ)ということになる。ただし、ここでいう内部/外部とは身体の内外という意味ではなく、情報が思考の担い手である脳に直結しているか否かということである。

「情報が脳に直結……って、いったい何を言いたいんッスか?」
「つまりじゃ、内部メモリたる脳にある情報は、自由自在ではないにしても、意思によってコントロールしたり、直接参照して行動することができるじゃろ」
「賢さにも左右されるけど、いちおうはそういうことッスね」
「しかし、外部メモリにある情報は、何らかの伝達行為を介して脳に取り入れないとコントロールも参照もできないってことなのじゃ」
「例えば……?」
「メモに書かれたものは、まず目や耳を通じて脳に伝える必要がある。そうしないと、情報として利用することも変更/修正をすることも不可能じゃからな。記憶という役割は同じでも、そこには歴然とした違いがあるんじゃよ」

 実は、コンピュータにおける記憶装置=メモリも同様で、本体の直接コントロール下にある内部メモリ(主記憶装置)と、基本的に内部メモリに読み込んで利用する外部メモリ(補助記憶装置)とに大別される。
 内部メモリは、当然のことながら記憶容量に制限があるが、外部メモリには容量の制限がない。もちろん、メモ用紙1枚という次元で見れば有限だが、それを何枚も使うことで事実上は無限の記憶ができるわけである。
 また、外部メモリには他のコンピュータと情報交換をする手段としての役目もある。情報というのは、このように外部メモリと内部メモリを往来することで広く活用されているのだ。

 さらに、メモリは情報の読み書きが可能なRAM(ラム:Random Access Memory)読み出し専用のROM(ロム:Read Only Memory)とに分けることができる。
 こちらのほうはメモリ自身の持つ本質的な特性による区別であり、内部メモリであろうと外部メモリであろうと、自在に内容の読み書きができるメモリはRAMに属し、記憶内容が固定された状態のメモリはROMに属する。
 どんな種類のパソコンでも、そこには必ず半導体で作られたRAMとROMが内部メモリとして入っている。

半導体


 電気を通す導体。電気を通さない不導体。その中間に属し、条件によって電気を通したり通さなかったりする素材のこと。詳しくは、2nd Stageで解説。
 電源オンと同時にコンピュータが動き出すのは、そういう働きをするプログラムがROMとして存在するからだし、RAMがなければ新たなプログラムやデータを受け入れることができない。
 ただし、内部メモリにあるRAMの内容は、脳に記憶してあるものが人間の死で失われてしまうように、電源オフと同時に消失してしまう。
 いっぽう、ROMとして記憶されている内容や、外部メモリに保存されたものは、電源供給の有無にかかわらず半永久的に消えることはない。

 初期のパソコンでは、カセットテープが外部メモリの主役だったが、現在ではフロッピーディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ……というように、多種多彩なものが使われている。
 CD-Rのように1回だけ書き込めるタイプ(追記型)は、ROMでもなければRAMでもないので、区別の意味も込めてRecordableの'R'が付けられた。メモリは、このようにコンピュータ本体から見て内部と外部、そして特性からROMとRAMに大別されているのである。

「とりあえず、メモリの区別はだいたいわかったけど、記憶する情報って具体的にはどういうものなんスか?」
「パ界における情報の最小単位のことは覚えておるじゃろな?」
「エ〜ッと、確か≪1か0≫を示すビットだったスね」
「そのとおりじゃ! さすが、わしの教え方はうまかったわい。コホン!」
「何を言ってるんスか?」
「ア、いや、その……実は、情報の最小単位はビットだが、記憶の最小単位はバイトなんじゃ」
「はァ?」
「だから、メモリへの書き込み/読み出しは8ビット、すなわち1バイトを基準としておるんじゃよ。そして、それがパ界の記憶単位なんじゃ」

 厳密には多少の異論をはさむ余地がないわけでもないが、例えば10ビットの情報を記憶したい場合、少なくとも2バイト(16ビット)のメモリが必要になるということ。いうなれば、バイトはデジタル情報の最小管理単位というわけである。
 そのため、メモリの記憶容量(=メモリ容量)もバイト単位で示すのが一般的となっている。
 ただし、これはあくまでもメモリを操作する上での最小単位であって、実際にファイルとして管理する際には記憶媒体(メモリの種類)によって状況は異なる。

ファイル


 コンピュータで扱うデータ(プログラムを含む)をまとめたもの。データそのもの以外にも、ファイル名、データ長、データの種類……というように、データを構成するための周辺情報も含まれている。
 具体的なメモリ管理の内容に触れるとキリがないので、ここではこれ以上の説明は控えておこう。
 いずれにしても、コンピュータにおけるすべての情報(文書、音楽、映像、プログラム……など)は、バイトをデータの基本単位として扱っているということである。

「だいたいは、わかったような気がするッス。バイトが重要なのは、人間社会もパ界も一緒なんスね!」
「ホントにわかっておるんじゃろか……?」
「それより、妙な疑問があるんだけど」
「なんじゃ、その妙な疑問っていうのは?」
「さっき本体の直接コントロール下にある内部メモリってあったけど、この本体って何のこと?」
「ホ、ホォ〜ッ!」
「最初はパソコン本体かと思ったけど、外部メモリだって実際に読み書きするときは、パソコン本体でコントロールするんじゃないの?」
「こりゃ、面白いところに気づいたのォ。まるで重箱の隅をつついたような質問みたいじゃが、実は重箱のド真中に的中しておるゾ」
「でしょでしょ……ッ!」
「確かに、あれはパソコン本体という意味ではない。もしそうなら、おまえの指摘するとおり、違いを示す根拠とはならんからな」
「エッヘン!」
「ここでいう本体とは……」
「本体の正体とは……?」
「おっと、その答えは自分自身で探し出すのじゃ。な〜に、パ界へ入れば遅かれ早かれわかるようになるサ。これまで得た知識はダテじゃない。必ずや、パ界へのパスポートとなって、大いに役立ってくれるじゃろう」
「そ、そんな……」
「そうじゃ、何か困ったときにはパ界を放浪中のスマイル・アユミンに問い合わせるがよい。これがメールを送受信する専用のPDA(携帯情報端末)じゃ。顔は見えなくとも、きっとニッコリ微笑んで教えてくれるはずじゃ。何しろ、わがマカイメイツの会員No.1じゃからな!」
「な、なんスか。そのマカイメイツって?」
「とにかく善は急げじゃ。さっそく、そのパ界の扉を開けるがよい。な〜に、危ぶむなかれ、踏み出せば、その一足が道となる……のじゃ。ホレッ!」

 マカイ老師は、そこまで話すと部屋の奥にある重厚な扉の前に、追い立てるようにして成康を立たせた。
 実は、その扉の先に広がっているのは、マカイ老師が20年の歳月と、全財産を投げ出して完成させたパソコンの裏側をシミュレートした不思議な世界なのだった。つまり、ここに行けば「パ界の根本的な仕組みを体験的に理解できる」というわけだ。
 マカイ老師は、ウジウジとためらっている成康に扉を開けさせると、その背中を一思いにドンと押した。
 トトトッ……と踏み出した成康が振り向いたとき、ちょうど重い扉が「ガチャリ!」と閉まる寸前だった。
 戻ろうにも、扉のこちら側には取っ手すらなかった。もはや、成康に残された道は前進のみ。いよいよ、パ界への放浪の旅の始まりだ。
 小さな興奮と不安、そしてかすかな期待……。いつものことながら、これが放浪の「心のプロローグ」なのだ。だが、呆然と立ちすくむ成康の後ろには、すでに数歩の足跡が着実に残されていた。


COFFEE BREAK:RAMの真相

 メモリを特性で分類したROMとRAM。このうち、ROM(Read Only Memory)のほうは直訳でも「読み出し専用メモリ」となる。
 しかし、RAM(Random Access Memory)を訳して「読み出し/書き込み可能なメモリ」とするのは、どう考えても強引に思える……かもしれない。
 本来の意味からすれば、これは「任意に接続できるメモリ」であり、読み出しとか書き込みとは無縁の英文。これを「読み出し/書き込み可能なメモリ」としたのは、ひとえにROMに対する役割上の必然性であって、意訳でもなければ誤訳でもない。
 もっとも、RAMが文面どおりに「任意に接続できるメモリ」の意だったら、分類のメインターゲットである半導体メモリにおいては、ROMは同時にRAMということになってしまう。
 ROMというのは、新たな書き込みができないだけで、任意に接続できるという点ではRAMと同じだからだ。それゆえに、RAMの持つ意味は「読み出し/書き込み可能なメモリ」でなければならないのだ。
 もはや、RAMは語源を超越して自立した単語になっている。これからも、RAMは本来の英文を無視したまま、ROMと共に存在感を維持し続けるに違いない。