☆ 映像のムムムッ! ≪初出『ポプコム』'91.10月号≫

 映像というのは事実を伝えているようで、実はさまざまなフィルターを通されており、真実との誤差は想像以上に大きい。

 英語の教科書には、たいていイギリスの公園の絵や写真が掲載されているが、広々とした美しい芝生の上を、犬がボールを追って走り回っている光景は、異国文化への憧れすら覚えさせる。日本ならば、芝生は「立ち入り禁止」が当たり前。犬と一緒にボール遊びをするなど、もっての外だ。
 そんな風景を自分の目で確認するのも、三田実造(みた・じつぞう)の今回の旅の目的だった。地図を頼りに、さっそく大きな公園へと足を運んだ。地図上でも緑色で示される公園は、教科書のイメージ以上に広大で美しかった。
 休日とあって、芝生の上では子供たちが犬とボール遊びをしている。公園の外から眺めた光景は、映像が真実であることを証明するかのように再現していた。
 だが、一歩公園に足を踏み入れるや、実造は驚きと不快の言葉を発せずにいられなかった。いたるところに、犬のフンが転がっているのだ。緑の芝生と思ってうかつに歩こうものなら、靴の裏はフンだらけになってしまう。
 そういえば、道路にもフンがアチコチに散乱している。踏みつけられてペチャンコになっているところを見ると、英国人にとって犬のフンは泥と同じ扱いなのだろうか!?
 しかも、そんな靴のまま家の中を平気で歩き回るのだ。実造は、憧れが急速にしぼんで行くのを実感した。やはり、真実は自分で確認するまでわからない……。


≪時は流れて……2007年1月≫
 いつの時代も、映像によるニセ真実にわれわれは惑わされることが多い。古くは、退却を進軍と偽った大本営発表の写真。そして、ネッシーや宇宙人などのインチキ写真。最近では、まるで魔法としか思えない不可思議なマジックを演出するテレビ局。
 一般観衆の面前で演じるマジックはスバラシイと思うが、サクラを使ったり、アナウンサーやタレントとグルになったり、カメラワークを駆使したり、テレビ局がマジシャンと一体になっての手法は、娯楽番組というより捏造番組。もはや「テレビに真実はない」と思わないと見ていられない。そう思えば、あえて魔法にかかったフリをしてダマされてあげるのも、それなりに面白いのでありマス。