☆ マンガ雑誌のムムムッ! ≪初出『ポプコム』'91.6月号≫

 マンガを見て成長した戦後世代にとって、いわゆる少年マンガ誌(少年サンデー、少年マガジン、少年ジャンプ……など)は、社会人になったからといって、そうそう止められるものではない。
 先日も、どう見ても40歳をとうに過ぎたとおぼしき男性が、電車の中で夢中で少年マンガ誌を読んでいる場面に出くわした。そのこと自体は悪いことではないし、誰からもとやかく言われる筋合いのものではないのだが……。
 漫田漫造(まんだ・まんぞう)は、すでにサラリーマンになって7年になろうとしていた。もうすぐ中年というのに、漫造は少年マンガ誌を毎週読むのが何よりの楽しみであった。たとえ周囲の視線がどうあろうと、面白いものは面白いでいいじゃないか。そういう思いで、漫造は相変わらずマンガを読みふけっていた。
 だが、ある日のこと、漫造の心に自然発生的に「このままいつまで読み続けるのかなァ?」という意識が芽生えてきた。年齢的にも、そろそろ30歳。子供の顔を見ながら、何だか急に恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
 そこで、好きだった連載の1つが終了したのをキッカケに、漫造は死ぬ思いでマンガ誌を読むのを止めてみた。
 最初の数週間のツラさ……。それは麻薬の禁断症状にも似たものだった(←あくまでも想像上のもので体験談ではない)。ところが、1ヶ月後にはそれにも慣れ、半年後には興味もなくなってしまったではないか!?
 アレレ……と思って、試しにマンガ誌を見てみたのだが、ストーリーがつながらないから面白くも何ともない。
 な〜んだ。少年マンガ誌ってこんなモンだったのか。漫造は、妙に出世したような気分になり、誇らしげに電車の中で新聞を読み始めたのだった。
 そして……。そこに、めでたく若者の心を理解できなくなったオジサンがひとり誕生したというわけである。ヨッ、ご同輩!


≪時は流れて……2005年2月≫
 マンガ雑誌に対する興味は失せても、マンガそのものに対する興味までなくなってしまったわけではない。かつて読んで好きだったもの、あるいは子供時代に読みたくても読めなかったものは、やはり昔と同じように読んでみたいのだ。
 というわけで、お気に入りの作品の復刻本などは、常に見逃さないようチェックしている。ただ。どうしても読みたい甲賀武芸帳(白土三平)は著者が復刊拒否とのこと。著作権法上はどうしようもないことなのだろうが、いったん世に出た著作物を読む権利は、著者の手を離れたところで管理してもよいと思うのだが……。
 これは著作権法の不備であり、それゆえに怪しげな私家版(違法コピー本)が出たり、お宝化して価格高騰を煽る業者が介在するのである。現物はお宝でも、読む権利までお宝にしてはならないよう、ぜひとも法の番人には検討してもらいたい。