☆ ビジネスマンのムムムッ! ≪初出『ポプコム』'90.9月号≫

 いかにも24時間働きそうなバリバリの日本人ビジネスマンらしき男性がひとり。とある外国の空港で
「アノォ、濃霧で飛行機が欠航してしまったんですけど……」
と日本語で電話をする。
「ゴ安心クダサイ。近クノホテルヲオ取リシマス。明日ハ、何時ニゴ出発デスカ?」
と受話器から聞こえる外国人女性のやさしい返答。
 異国で日本語によるサービスは「実にありがたい!」といった顔で、かの日本人ビジネスマン氏は立ち去るのだ……が、こんなCMを見るたびに「こんなのウソだ〜い」と思ってしまう。
 エッ、サービスのことじゃありませんヨ。ひとりで海外出張をするような男が、ホテルの予約もできないなんて不自然と言っているのだ。
 たとえすべてのホテルが満室で、カード会社が押さえてあるホテルしか予約が取れないにしても、あの程度の会話は英語でできるはず。でなきゃ、単身で海外へ乗り込んでも何もできない。
 あんなCMが堂々と流れるようじゃ、やはり日本は正しく理解されないよね。羽織はかまに脇差し、そしてチョンマゲ頭のサムライが「濃霧ゆえ、一夜の宿を求めておるが」というならシャレにもなるが、あれがトップビジネスマンでは日本人の面目丸つぶれ。大卒の日本人は、10年間英語を習っているんだゾ〜ッ!


≪時は流れて……2003年8月≫
 もちろん、当のCMは画面からも記憶からも消え去り、ようやく「そういえば……」と思い出すような始末。でも、一般的な大卒の英会話レベルは、今にして思えば「こんなものなのかなァ」という気がしないでもない。
 おっと、筆者がエラそうなことを語る立場にあるわけではないが、外国で頑張るビジネスマンの応援をしたかったというのが本音。ただ、それだけのことである。