☆ 引退にまつわるムムムッ! ≪初出『ポプコム』'90.8月号≫

 今は昔の物語。すでに人々の記憶からは忘れられてしまったが、かつて「普通のおばさんになりたい!」と言って引退した某女性歌手が、わずか数ヵ月後にアッサリと復活したことがあった。
 そういえば、そのセリフの原点である「普通の女の子になりたい!」と言って引退した女の子(←当時)たちも、紆余曲折はありながらも、やはり芸能界へと戻っている。いったい引退って何なんだろう?
 もっとも、そのこと(復活)自体、取り立てて悪いというものでもないし、興味のないレベルの話でもない。ただ、これではコトの展開があまりに予想どおりでつまらない。
 だって、引退にあたって将来への展望も決意もないし、まるで引退の瞬間から復帰へ向けてのレールを歩んでいるような雰囲気が漂っていたのだから。少なくとも、見ているほうにはそう見えた……。

 ところで、プロレスラーにもハデな引退試合を行ったくせに、平気な顔でカムバックをする例が後を絶たない。もちろん、これらも本人個人の問題だし、そうした行動に対する好き嫌いも個人の問題だ。
 たとえ、そこに2度興行を打てるとか、話題になるといった裏の事情があるにせよ、それは冷静に見れば予想の範囲に収まるもの。部外者がとやかく騒ぐほどの価値は、どこにもないのだ。
 だが、知っている人しか知らない(←当り前だネ)ことだが、いったん引退したアニマル浜口のレスラー復帰は驚きであった。なぜなら、彼はレスラーをやめてからボディビル大会に出場し、とにもかくにも優勝をしていたからだ。
 30Kgもの減量をし、その間の写真は見るも無残なシワだらけ。これは本気(の引退)じゃなけりゃ、とてもできないこと。そこには、レスラーに戻ろうなんていう雰囲気はみじんも感じさせなかった。
 そこからの復活劇。さまざまな事情があったようだが、そんなことはどうでもいい。本気でやめたという証拠を、身体を張って見せてくれたのだから。
 現役時代(復活前)は、あまり好きなレスラーではなかったが、この本気から本気への転身で、思わず彼を見直したネ。
 ダイエットにトライした人なら、体型をコントロールすることの難しさはイヤというほどわかるはず。決して、軽い気持ちでは実現できないものなのだ。

 人間だから、時間の変化で気が変わるのは当然だ。だが、たとえ同じように気が変わるにしても、全力を投入している姿には"美"がある。