☆ 剣道のムムムッ! ≪初出『ポプコム』'90.5月号≫

 ここにナゾの勇者・Tがいる。彼は、中学3年のときに剣道を始め、約半年後に初段を取った。
 しかし、高校では2度、二段にチャレンジして失敗した。実は、二段以上になると県により合格率にものすごいバラつきがあるのだ。8割以上を合格させる県もあれば、1割程度しか合格させない県もある。
 そこには各県の剣道連盟の台所事情というものが醜く浮かび上がるのであるが、そんなことはこの際どうでもいい。勇者・Tにとっては、この初段という中途半端な段位がイヤでたまらなかったのだ。

 そう思いながらも時は流れ、勇者・Tも30歳を超える年となった。引っ越した近所に剣道場があることを知った彼は、ついに念願かなって剣道を再開した。
 彼は剣道そのものが好きというわけではなかったが、格闘技として激しく暴れられる部分には魅力を感じていた。だから、メンでも途中で止めたりはしない。相手が避ければ、竹刀は肩か床を直撃する。メンに当たれば、相手は痛みが脳天からつま先までジ〜ンと走る。これぞケンカ剣道……。
 そして、勇者・Tは二段、三段と合格した。もちろん、合格率の低い埼玉は避け、東京で受けた。受かってしまえば全国共通の認定なのだから、営利主義の連盟に甘い汁を飲ますことはない。とにかく、これで段位としての目的は達成したのだ。
 これから先は暴れるだけでいい……と思ったのだが、どこの世界にもいるのが教え魔。頼みもしないのに、やれメンが曲がっているだの、それじゃ四段になれないだの、おせっかいが始まった。
 もう、ヤ〜メた。勇者・Tは心おきなく竹刀を置いた。とかく日本人は型にはめるのが好きな人種だ。アメリカ大リーグの自由なフォームを見るがいい。要は、打てばいいんだ。それが独創性じゃないか。

 翻って、プログラミングに求められているのは、この独創性なのである。同一思考を求める現在の教育では、プログラムまでもが均一化されてしまうのだろうか。
 教員用トラの巻にある正解見本しか知らないような先生には、とてもコンピュータを教えることはできない。なぜなら、新しい思考は常に常識ハズレからスタートするのだから。そして、それこそがプログラミングの心なのだから……。