■ ご挨拶:第82回(2019年5月12日)■

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 本日のご来場、まことにありがとうございます。故事や格言・ことわざの類には、素直に納得させられる内容が多い反面、例えば「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と「君子危うきに近寄らず」のように、結果任せのご都合主義的なものも少なからずあります。
 よく知られた「例外のない規則はない(There is no rule without exceptions.)」にしても、これ自体が規則の真理なら「例外のない規則もある」ということになり、まったくもって無意味な言葉遊びとなってしまうわけです。ただし、それを補完するかのように「矛盾」という故事から転じた熟語も存在しており、トータルして丸く収まる「そつのない構成」となっているのです。
 そんな邪推をしないことを前提にして、十代のころから人生訓としていたのが転禍(てんか)という言葉です。正確には転禍為福(てんかいふく:禍転じて福と為す)なのですが、自己解釈としては同類の「人間万事塞翁が馬」と混用していたかもしれません。
 いずれにしても、すべての結果をポジティブに受け入れる…ということです。お蔭で、失敗による挫折感もなければ、神が与えた試練と重く受け止めた経験もなく、身体にストレスという負荷をかけずに済んだような気がします。
 とはいえ、こんな深層心理を知らない第三者には、単に「のん気」「ノー天気」なお気楽者、あるいは典型的な「総領の甚六」という烙印を押されることも日常茶飯事です。そして、それを気にしないでいられるのも、これまた転禍の精神の賜物といえるでしょう。

 ところで、誰しも口論をした経験はあると思いますが、お酒が入ったり性格的に譲れないタイプの人の場合、不幸にして事件にまで発展するケースもしばしば耳にします。争いの原因は、客観的に見ればその場限りのどうでもいいことなのですが、互いに論破しないと意地とプライドが…となれば騒動は大きくなるばかりです。
 ここで相手に花を持たせて「言いたいヤツには言わせておけばいい!」と引き下がれるのが本当の勇者。しょせんは場末の「うたかたの論戦」なのです。一時の優越感に浸って喜ぶべきなのか、その程度の人物と内心で逆評価を下すべきなのか…問われているのは勝敗より度量です。
 人間は、他人と競って勝利したと感じることで幸福度がアップする感情の動物です。例えば、自らをピエロ役の恋敵と思わせたり、バカなそぶりを演じてみせることで、相手の喜び指数を増幅させることができます。逆にいうと、あえてそうすることで相手の反応を引き出せば、人物レベルを見抜くことが可能なわけです。
 実は、世界に誇る忍者の使命も、基本となるのはこうした心理操作にあります。当然、演じる術者が人生をかけて臨まなければ、途中でバレてしまいます。そんな術者をして、ようやく真意を理解できることわざ…それが「負けるが勝ち!」なのでした。
 視点を変えれば腹黒い性格のなせる技にも思えますが、最後まで相手は勝利感と優越感に浸っているのです。これこそがウィンウィンの原点であり、丸く収まる秘訣といえるでしょう。
 …と、術をかけた側が思い上がっていると、実は術にかかったフリをしているだけ…と、逆一本を取られていることだってあるのです。とかくこの世はキツネとタヌキの化かし合い。化かし合いなら争いにならない…ということを誰かに教えたくなりませんか?


〜〜〜〜 ちょっと一言ご挨拶(2019.9.26)〜〜〜〜

 転禍というと、何もしないで「なるようになった」とか「気の持ちよう」と解釈されそうだが、その背景には積極的な行動と闘う姿勢がある。たとえ暗中模索であっても、全力でもがいた結末には納得できる愛着があるのだ。福とは、本来そんなものだと思う。
 もしかすると、そのプロセスそのものが福なのかもしれない。どんなキッカケであれ、どこかへ向かおうとするエネルギーには輝きがあるからネ。ならば、そもそも禍なんて存在していないのでは…???

 大学を卒業してから6年と数ヶ月勤務したラサ商事株式会社。入社当時は、社歴こそ長いが非上場の中堅商社だった。穏やかで自由気ままな社風は、振り返れば最高に居心地のよい環境…なのに、世間知らずの若者が在職中にそこに気づくことはなかった。社会人としての経験値が不足していたのだ。
 このまま地道に無難に働いていれば、そこそこの出世をして安定した人生を送れたのに…なんて思うはずもない。いつだって、気分は「三日月よ、我に七難八苦を与えたまえ」の山中鹿之助なのだ。常識として「石の上にも三年」の自覚はあっても、3年毎に辞表(一度目はやさしく慰留)では、会社だって「これ以上は仕方あるまい」とサジを投げる…。
 …で、辞めて自宅でのんびりといっても、それでは生活が成り立たない。世間体も悪いし、満員の通勤電車が無性に恋しい。ということで、貿易営業の職種で登録していた人材バンク(リクルート)の資料に目を通していたところ、こんな企業を発見! 

 社名などの詳細は伏せてあったが、所在地が神楽坂(新宿区)ということが妙に気になった。まだ本社と工場は別…という知識も情報もなく、勝手に小さな町工場をイメージしていたのだ。そんなこんなでウジウジしていたところ、家族から「行けばわかるヨ!」と猪木さんの名言さながらに背を押され、迷わず電車に乗ってリクルートへ向かったのであった。
 そこで初めて知ったカーメイトという存在。参考資料として会社案内を見せてもらったのだが、身体中に電気が走ったような衝撃を覚えた!

 自動車部にいたくらいだから、カー用品やカーアクセサリーに興味があるのは当然だ。でも、そういったものは脇役としての存在。人生の主役は…いつだって身体トレーニングなのだ。
 ということで、どうしても「入社したいッ!」と思い込んでしまったのは、会社案内にあったモノクロの社内風景の写真…の中のこの1枚。オオッ、大好きな運動会があるッ!!!

 リクルートのお姉さんの「あなたの経歴は輸入なので輸出業務希望のカーメイトは紹介できません」という冷酷な対応など何のその。会社案内から住所と電話番号を控えて、国内営業でも何でもいいから…と直談判したのであった。ただひたすら、運動会に参加したいがために…。

 転禍ということであれば、輸出担当者は直前に間貿企業(いわゆる商社)からヘッドハンティングをしていたため、さすがに同時に二人は無理…ということで国内の新規販売ルート開拓となったのだが、この流れがなければプログラミングとは無縁の人生だった。
 こうなると、見かけの禍が福を呼び込んだのか、渡る世間は福ばかりなのか、結果を問わない正解は「迷わず行けよ!」の精神に尽きるだろう。

 ちなみに、最大の魅力だった社内運動会は、あれが最初で最後だったとのこと。在職中はもちろん、その後も二度と開催されることはなかった…らしい。