何気ない所作にまで染みついていた剣道だが、最初は弟が始めたので「おまえもやれ!」という父親の強制だった。いくらイヤでも、竹刀だけでなく上等な防具一式まで揃えられては、従う以外に道はない。こうして『有隣館』という町道場へ渋々通うこととなった。
そして8ヶ月後に初段。高校では剣道部に入るも1年で退部…なのに道場通いは気まぐれ程度に続けていた。素質がないのか、二段の昇段試験は2度も失敗。その情けなさが心残りで、30歳を過ぎてから近くの市民体育館で稽古に励んだ…というのが表向きの理由で、単に体内エネルギーが余っていて無性に暴れたかったのだ。
およそ「剣の道」とはかけ離れた不純な動機とプロセスだが、とりあえず段位としては恥ずかしくないレベルになった。
どこの道場にもいる「口うるさい教え魔」には閉口していたし、これ以上「剣の道」を追求しようという信念も情熱ない。カーメイトでの仕事も、一段と忙しさを増してきた…。
ということで、悩むことなくアッサリと剣(←もちろん竹刀)を置いた。たぶん、これで二度と竹刀を振ることはないだろう…と思いながら。
あれから40年(←正確には41年)…綾小路きみまろの漫談ではないけれど、時間が経過すれば環境も心境も変わる。目の前には、暴れるにふさわしいミニ体育館があるではないか!?
そこに素足で立っただけで、足裏から伝わる懐かしい感触。まさに剣道場そのものだった。躊躇することなく、竹刀と小手を買い求める。そこで…フト思う。一人でする素振りは、やはりむなしい。竹のぶつかるパカ〜ンという音が響いてこそ剣道だッ!
とはいえ、それには相手となる人間が必要だ。そうなると、今度は相手の都合や時間を考慮しなければならない。それ以前に、同じレベルで競える相手を探さなければならない。
あれやこれやで、全部がぜ〜んぶ面倒なことになってしまいそう。ならば、自分を相手に勝負をすればよいではないか。ということで、背もたれが壊れたボロ椅子と廃材を組み合わせ、向かっては来ない対戦相手を作り上げたのであった。
面がねは、かつて使用していた本物の部材。廃棄する際に、記念のオブジェとして分解し保存していたのだ。当然、中にいるのは正真正銘の自分(←の写真)だゾ。サァ、どこからでも、かかって来い〜ッ!
腕が鈍ってトロくて下手…なようにも見えるが、何といっても相手は本物の自分…ではなく、手間と時間をかけて作った大切な作品。いくら「かかって来い!」と胸を張られても、無茶をして壊れたら修理をするのは自分だからネ。そりゃ、気を遣いますヨ。