家屋の解体というのは、必然的に建築時の逆の流れになる。重機を使う専門業者の場合は、解体というより破壊に近いので様相が異なるが、ここでの作業はDIYの世界。いわば組み立てたカラーボックスをバラすような感覚だ。
一般的な木造住宅は、基礎〜骨組み〜屋根〜外装〜内装という順で建てるので、その逆ということは内装の白壁を壊すところから始まる。ただし、すでに電源は切断されているため、採光を考え外壁も並行して壊している。
江戸長屋の間仕切りでも見かける白い壁。これは漆喰(しっくい)といい、基本的には竹を細い荒縄で格子状に組み、泥で固めてから白い石灰で覆ったものだ。見栄えもよく耐火性もあるが、内部が泥なので柔らかくすぐひびが入る。
後先を考えずに壊すなら簡単だが、乾いた泥をそのまま床に落とすと事後処理が大変。そこで、農業用のテミ(大きなチリトリみたいなもの)を小脇に抱え、少しずつ丁寧に剥がす。両面の泥を取り除いたら、組んである竹をバラすのだが、釘で固定した箇所ありとても面倒な作業だ。
この作業中は、本格的な防塵マスクが必須となる。普通のマスクでは、たとえ二重にしても喉も鼻も真っ黒けになってしまう。防塵マスクは、さすがに効果は段違いに高いのだが、フィルターなどを毎日分解して洗わなければならないので、ついつい普通のマスクで…何度後悔したことか。
ともあれ、こうして少しずつ壁を撤去し、構造的に不要な柱や鴨居も取り除く。取り除いた木材は廃棄処分するのではなく、すべて30cm程度にカットして薪とするのだ。
当然、危険のないように釘は抜かなければならない。一連の作業は、解体と再生利用が同時進行しているようなものなので手間がかかる。漆喰の泥でさえ、畑の通路の整備資材となっているし、すべては有効利用先を考えながら壊しているのである。
室内で最後に控えし大物…それが天井だ。一気に落としたいところだけど、天井裏の泥埃(どろぼこり)を見たら、とてもそんな気になれない。
こんなものを2メートル以上の高さから落としたら、まるで泥爆弾を投下するようなもの。周囲を巻き込む大惨事になってしまうだろう。周りには洗濯物だってあるし、どうしよう…と何日も前から対処法を考えたのであった。
結局、悩んだ結果はチリトリで少しずつ泥埃を取り除き、防塵対策として緩く絞った雑巾で拭いてから切り取る…という平凡な方法を選んだのであった。
たとえ時間はかかっても、1日に1畳分を目標にチマチマと作業を続けていれば、いつかは必ず終わる時が来る。何かと忙しいご時世だけど、こんなときこそ「ノンビリした性格が役に立つこともあるのだ」なァ〜んて、泥まみれの自分をちょっぴり褒めながら…ネ。