◆広告の威力

 モノが売れない理由など、いくら強調しても単なる言い訳でしかないが、ショップやユーザーから「どうやったら入手できるのか?」という問い合わせが相当数あったのは事実である。これは、少なくとも広告の効果であり、直接の営業ではカバーできなかった未開の商圏である。だが、広告の影響はそれだけではない……。
 モノを売る側の広告は、同時に買う側の広告でもある。つまり、広告代理店や雑誌社からみれば広告というスペースを買ってくれる客というわけだ。また、パソコン雑誌にとっては、新作ゲームや新参企業を発見する場でもある。人間の立場なんて、いつどこで逆転するかわからない。まさに「今日の営業、明日の客」ではないか。
 というわけで、このとき「次の機会には広告を……」という逆営業を数社から受けた。中には、実体のよくわからないアヤしげなアプローチもあったが、アスキーの広告担当のT氏はキチンとした話のできる人だった。また、雑誌記事への紹介ということで、『ログイン』『ポプコム』『PCマガジン』などからもコンタクトがあった。ただし、雑誌社の場合は電話でサンプル提供を申し入れるだけで、どちらかというと事務的な雰囲気だ。『ログイン』のA氏だけは、近いからということで訪ねてきたが、あくまでも取材の延長線であり、結局どこも営業という態度は見せなかった。
 そんな中で、『PCマガジン』のラッセル社は掲載記事をキッカケに常に見本誌を送ってくれ、無言ではあるが接点をキープしたいという意識を感じた。

 どちらかに「出会い」を大切にしようという意識があると、少なくともその意識は相手に届く。結果的に一方通行で終わってしまうかもしれないが、まずボールを投げかける……。これは営業の基本的な常套手段である。


★パソコン雑誌★
 この当時のパソコン雑誌にはどのようなものがあったか、本棚に保存してあるものを見ると時代の流れを痛切に感じるものばかりだ。
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 『Oh!PC』『Oh!MZ』『Oh!FM』『BEEP』:日本ソフトバンク
 『ASCII』『LOGIN』:アスキー出版
 『I/O』『PiO』:工学社
 『マイコン』『マイコンBASICマガジン』:電波新聞社
 『テクノポリス』:徳間書店
 『ポプコム』:小学館
 『コンプティーク』:角川書店
 『PCマガジン』:ラッセル社
 『プロコン』:エム・アイ・エー
 『ロンロン』:芸文社
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 この当時のパソコンは、電源を入れてもBASICというプログラム言語を入力するための画面が立ち上がるだけで、そのままでは何もできないのが当たり前だった。中には、クリーンBASICと称してBASICそのものを毎回ロードするという機種もあったほど。それゆえに、パソコンで何かをするためには、こうした雑誌の手ほどきを受けるのが一般的だったのだ。
 何かをするといっても、ディスプレイでゲームをすること自体が斬新なことだったから、まずはゲームの世界を味わうためにソフトウェアを購入することになる。そして、節約のために雑誌に掲載されているプログラムを入力するようになり、徐々にパソコンを使いこなしていくようになるのだ。やがて、プログラムそのものに興味を持つように…なる人はなるというわけ。
 だから、ほとんどの雑誌にはプログラムやテクニックが掲載されていた。というより、大半のページはパソコン・メーカーやゲーム制作会社の広告とプログラム専用ページで成り立っていたのだ。歴史は決して後戻りしないというけど、現在のパソコンの姿を見れば、これらの雑誌が消えた理由が簡単に想像できるだろう。
 二度と復活しない…けど、それはそれでとても面白く、また未来に夢を感じる時代だった。そういう意味では、ほぼ完成されてしまった現在のパソコンには実用上の魅力はあっても、ワクワクするような未知の期待感は失われてしまったような気がする…。